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クルーズ計画の顛末

旅の計画を立てよう。日々の雑事に追われる毎日は放り出そう。私は考えてみた、どんな旅が私の望むものだろうか? それはクルーズである。クルーズはいい。船旅はもっとも旅らしい旅だ。豪華客船のクルーズを申し込もう。そう思って貯金通帳を開いてみたら、ちゃんとボーナスが入金されていた。これなら十分バルコニー付きのキャビンを予約できる。私には船旅のイメージが出来上がっている。港から出る船は五色のテープで岸壁とつながり、やがて名残を残して果てしない大海原に向かう。バルコニーからテープを投げる、これぞ船旅の醍醐味。バルコニーの無いキャビンでの船旅なぞ考えられもしないのだ。

しかし、パンフレットを見て気が付いた。部屋の種類によって随分と料金設定が違うものだ。窓無しの客室というのは実に安い。バルコニー付きの半額以下だ。同じ航路を辿ってここまで差があるだろうか?食事その他、部屋以外は全く差がないのにである。もちろんバルコニーからテープを投げると言うのは重要なことであり、また航海中に常に窓から景色が見えるのは魅力だ。それでも、よく考えてみれば、窓から景色が見えるのは出航の時だけだ。あとは、ただ水平線の海ばかりになる。陸地が見えた時は、甲板か展望室に行けば良い。急遽方針を変えて、船底の一番安い部屋と言う事にした。無駄にお金を掛けるより同じ予算で2度行けた方が満足度は高い。

豪華客船のクルーズでの楽しみは決して窓から見える景色ではない事に気が付いたわけだ。船内のアクティビティーや食べ物、パーティーを楽しまなくてはならない。中でも、食事はその重要な部分を占める。船長主催のフォーマルディナーあり、カジュアルダイニングあり、ナイトバーもある。クルーズではこれが部屋の料金とは関係なく全て料金に含まれており、基本的に全部食い放題飲み放題になる。船底の安い部屋に陣取り、たらふく豪華に食うというのはお得としか言いようが無い。そう、安い窓なし部屋で豪華客船に乗る。これが、私のやりたい旅なのだ。

問題は航海が何日も続くことである。そう何日もたらふく食うわけにもいかない。飽きてくるし、第一それではメタボになる。料理の内容は豪華と言っても料金に見合ったものであるとも限らない。やはり、材料を船に乗せて運ぶのであり、新幹線の弁当のように、地上の相場から見れば割高になることは否めない。帝国ホテルのバイキングランチのような豪華な料理も5000円程度だからクルーズの食事よりもよほど安い。豪華な食事を楽しむと言うことであれば、クルーズよりも都内の豪華ホテルだ。何日も続くわけではないのでメタボの心配も少ない。クルーズの計画を考えて来たのだが、景色が問題で無ければ、豪華な料理こそが重要である。そう、ホテルダイニング。計画を大きく変えることになるが、これこそ私がやりたかった事なのである。

一流ホテルの食事には雰囲気がある。器も凝っているし、ウエイターの物腰もちがう。こういう所で食べることこそ最高の贅沢と言える。はっきり言ってこちらの方が燃料や運転に経費がかかるクルーズよりも内容的に上なのは当然である。しかし、雰囲気というのもタダで出来るものではない。だからその、分食材などにかけるお金は少なくなるのはやむを得ない。ホテルというのは人を泊めるところであり、お料理を実質として楽しむなら、むしろ料理を本業とするところがいいに決まっている。専門のレストランで5000円出せば帝国ホテルのバイキングよりもはるかに内容のある食事ができる。そう、レストラングルメ。また計画を変えることになるが、これこそ私がやりたかった事なのである。

雰囲気に惑わされてはいけない。レストランは純粋に味である。外見がどうあろうが、汚らしく見えようが、とにかく味が良ければいい。しかし、この味というものは一筋縄にはいかないもので、単に料理の材料や作り手の手腕だけでなく、食べる側の体調とかにまで依存してしまう。おふくろの味などと言うことをいうが、人間は慣れた味をうまいと感じるものである。妙に豪華なものよりも慣れた味というのが一番落ち着く食べ物なのである。物事は本質を突かねばならない。私が計画を立て、やろうとしている事の本質はいったい何なのだろうか。ここまで考えた私は思いついてしまった。そうだ、ラーメンを食いに行こう。また計画を変えることになるが、これこそ私がやりたかった事なのである。

こうして私のクルーズ計画は、今日も横丁の珍来軒にラーメンを食べに行くことで落ち着いてしまった。

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